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始まったばかりの彼のアメリカ留学生活。
英語を話せないことが大きなネックとなり様々なことが起こります。
彼の「Giro o Mundo」アメリカ留学編は、険しい山道から始まります。

[ 1、留学開始編 ] [ 2、英語苦戦編 ]  [ 3、前期体験入学 ]
[ 4、高校生活編1 ] [ 5、日常生活編1 ] [ 6、後期体験入学 ]
[ 7、高校生活編2 ] [ 8、日常生活編2 ] [ 9、卒業編 ]

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 初登校とロッカー
1989年9月6日 ★★

まだ一人も友だちのいない学校に通う初日ほど、どきどき緊張する日はありません。
それが、異国の地で、言葉もろくにわからないなら、なおのことです。

彼は、黄色いスクールバスに乗り、オークハーバーハイスクールに初登校しました。

Locker
まずは自分のロッカーの位置を探します。
先週、オリエンテーリングで1度学校の事務室に来た時、ロッカーの番号をもらいました。
アメリカの高校生活では、休み時間に分厚い教科書をロッカーから出し入れして教室を行き来することになります。
ロッカーは高校生活にはなくてはならないものなのです。

「…あ、あった!」
ずらーっと並んだロッカーエリアを2周ほどして、やっと自分のロッカーを見つけました。
どれも同じ形で同じ色をしているので自分の番号が書かれたロッカーを探すのだけで手間取ってしまいました。

「…あ、開かない…!」
教えてもらった番号通りにダイヤルしてるつもりなのですが、開かないものは開きません。
「右回しで36にあわせ、左回し48にあわせ、右回しに57…。」
という風に1つのダイヤルを左右にまわすタイプのロッカーで、使い方がよくわかりません。

「協力を求めよう!」(ask for help)

さっそく研修で教わったことを実践してみます。
「…え、えくすきゅーず みー…。」
近くにいた生徒にカタコトの英語とジェスチャーをまじえ、彼はロッカーの開け方を頑張って聞いてみました。
全く知りもしない人に自分の番号を見せてしまう、なんとも大胆な行動です。
この後、その人にロッカーを荒らされたり物を盗まれたりする事態を考えなかったのでしょうか?

Oak Harbor 89
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 こんな始業式、あり?
1989年9月6日 ★★★★

ジリリリリリ………

結局自分のロッカーの開け方がわからないまま、始業のベルが鳴ってしまいました。
仕方なくそのまま1限のクラスに向かいます。
ロッカーの開け方を聞いた生徒も、1限に同じ「スピーチ」のクラスをとるつもりのようでした。

クラスについてみると、人が全然いません。
「…みんな、遅刻?」
始業式に大勢の生徒が遅刻とは、大胆な学校です。

とりあえず、適当に席に座って、待つことにしました。
「体育館で始業式がはじまってるよ。」
数分後、見回りの先生が教えてくれました。

「始業式をさぼっちゃった?! 初日からなんてこった!」
体育館へ急いで行ってみます。

ワアアァァーー…!!

なにやら、大きな歓声があがっています。

始業式
「今年もすぐフットボールのシーズンが始まるぞ!みんな応援をよろしくな!」
ゴツイおじさんがマイクで叫んでいます。
体に合わないミニスカートをはき、詰め物を必要以上にいれた大きい胸のチアガールに扮して…。
「……………。 な、なんだ、これ?」

「いいぞー!! 先生!」
このゴツイおじさんは、どうやら高校のフットボールチームの監督の先生のようです。
体育館の客席部分に生徒達が立ち、先生のパフォーマンスに過剰に反応します。

「ゴー! ワイルドキャッツ! ゴー!!」(=高校のマスコット名の愛称)
チアリーディングチームの掛け声にあわせて生徒達も大声を張り上げます。

「宿敵、隣のクーペベル高校をぶっつぶすぞ!」
その後も生徒がマイクパフォーマンスを続けます。

校長先生の長ーいお話は、ないのでしょうか?
新任の先生の紹介とか、主任の先生のありがたいお話とか、ないのでしょうか?

日本の始業式とは全く違う「お祭り」状態です。
こんな楽しい始業式なら、貧血で倒れる生徒などいないでしょう。


後から分かったことですが、先ほどのチアガールに扮していた先生は、彼の「心理学」の先生でした…。
 
Oak Harbor 89
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 留学初日 初授業
1989年9月6日 ★★

体育館でのハデな始業式も終わり、それぞれが自分の1時間目のクラスへ向かいます。

なんと、アメリカの高校は、新学期の初日から授業があるのです。
といっても、初日は授業内容のガイダンスだけでどのクラスも20分程度で終わりました。

「Hello!! Are you an exchange student?」(あなたは留学生?)
どのクラスの先生も、留学生を扱い慣れています。
「この高校は今まで数多くの留学生を受け入れていたんだな。」
そう想像するのは簡単でした。

「いえす、あいむ ふろむ じゃぱん。」(はい、日本から来ました。)
これだけの文章を言うのにも、1分ほどかかってしまいます。
しかし、どの先生も彼のたどたどしい英語を一生懸命聞いて、ゆっくり対応してくれました。

「………全然聞き取れネェ…。」
初日のガイダンスを受けただけで、自分の英語力がないに等しいことに気付きました。

「Are you OK? (大丈夫?)」
「あ、あいむ ふぁいん…。(大丈夫です…。)」
ついそう言ってしまいましたが、全然大丈夫ではありません。

「話すための英語」を日本では勉強しないので、しゃべれないのは当たり前なのですがかなりショックでした。
「一緒にがんばりましょう!」
先生方にそう励まされ、彼も少し気を持ち直します。

「You'll be fine!(すぐに問題なくなるよ!)」
先生は続けます。
本当にそうだといいのですが…。

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 はじめての友達
1989年9月6日 ★★★★

最後の6限目のクラスでは、彼の近くの席に韓国とブラジルからの留学生が座っていました。

「....Hi...! Nice to meet you!(…よろしく!)」
「…はーい、ないす とぅー みーちゅー、とぅー!(こちらこそ、よろしく!)」
おきまりの英会話で挨拶を済ませます。
お互いまわりは知らない人だらけ、留学生同士まずは手堅く「友だち」になっておきましょう。

韓国からの留学生はハミャンという、物静かな男の子です。
ブラジルからの留学生はリサ キノシタという日系3世の女の子です。
それぞれ自己紹介を済ませました。

留学生活初日で友だちができました!!
二人の友達ができたことで、急に留学生活に道が開けた感じです。

ここでのこの出会いが、後々の彼の「韓国語学研修記」
「ブラジル放浪記」につながろうとは、この時夢にも思いませんでした。

Kelly
「こんにちは!」
「え?!」
彼はいきなり後ろから日本語で話し掛けられました。

「私はケリーです。去年1年間日本に留学していました。」
「こ、こんちは…。」
どこから見てもアメリカ人のかわいい女の子に話し掛けられ、しどろもどろです。

「アメリカの高校はどうですか?」
「え、いや、そのぉ…。」
英語どころか日本語もろくに話せなくなっています。

これが彼とケリーの最初の出会いでした。
留学生に理解のある彼女は、これから先、彼らと色々行動を共にすることになります。

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 留学初日 ショックな出来ごと
1989年9月6日 ★★

「授業のスケジュール表を提出する必要があるみたいだよ。」
ということで、彼はハミャンらと共に事務室に向かいました。

新学期が始まったばかりなので、いろいろな生徒達が事務室に用があるらしく、長い列に並ぶことになります。
そこで彼は、ハミャンに他の留学仲間を紹介してもらいます。

「彼はアンドレ、イタリア人。」
「彼女はアン、スイス人。」
ほかに、フィリピン、スウェーデン、スペイン、フランスと、国際色豊かな留学生がこのオークハーバー高校には集ったようです。

「How was your first day?」
「Fine, but I think I will change this class...」
「Why? Doesn't fit you?」
「Well, ......」

そのヨーロッパからの留学生達は、まるで母国語を話すかのようにペラペラ英語を話しているではありませんか!
実際には、片言の英語を話していただけかも知れません。
しかし、英語をほとんど話せない彼にとっては、みんなが流暢に英語を話している様に見えました。

「ここで英語を話せないのは自分だけ?」
今日のガイダンスだけの授業で、自分の英語力が本場では全く役にたたないことを思い知らされたばかりです。
これは、そんな彼に追い討ちをかけるような出来ごとでした。

「…やばい…。 これは、非常にやばい。」
これからアメリカで高校生活をする際に、大きなハンデを背負っていることに今さら彼は気付かされます。
1年と言うこれからの道のりが、永遠に感じられた瞬間でした。

事務室で順番待ちに時間がかかったため、スクールバスがすでに行ってしまったことに気付くのは、それから少し後のことでした。
家まで歩いて帰る道のりが、永遠に感じられた瞬間でした。

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 お気に入りの椅子
1989年9月 ★★★

登校初日の教訓で、スクールバスは乗り遅れると大変な目にあうことが分かりました。
そこで、彼は次の日から$100(当時約1万4千円)で買ったばかりの自転車で通学することにしました。

それ以降、毎朝早めに学校に行き、1限のクラスの自分がいつも座る席で静かぁーに授業開始を待っていました。

ある日、いつものように彼が自分の席に座って教科書を見ていると、同じクラスのキャサリンが入ってきました。
キャサリンは高校生とは思えないような大人の雰囲気ただよわしているとびっきり美人の女の子です。
キャサリンを初めて見た時、誰もが思わず「ほんわぁ〜」となってしまうことでしょう。

Do you like it?
キャサリンが教科書をとりあえず自分の席に置いて、教室から出ていこうとした時のことです。
「ねぇ…。」
驚きです!
なんと、彼女の方から彼に話しかけてきました!!
彼の心臓はどんどん鼓動が早くなっていきます。
彼女は何を言おうとしているのでしょうか?

「………、その椅子、好きなの?」(=Do you like that chair?)
こう言い残して彼女はクラスから去って行きました。

ショックでした。
彼にとってはキツーイ一発でした。

きっとキャサリンの目には彼は毎朝、話す友達すらいない寂しい奴に見えたことでしょう。
みんなが授業開始前に食堂で朝の一時を過ごしていようなどと、彼はただ純粋に知らなかったのです!

次の日から、とりあえず1限の開始前は何がなんでも食堂に行くことにしました。
その椅子が好きでないことを証明するために。

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 これ、買わない? 
1989年9月 ★

英語が分からないと言うのも、時には使い様です。

ある日の休み時間、次の授業の教科書を取りに自分のロッカーに戻った時のことです。

DRAG
まだ友達になっていないし、今後も友達になりたくもないタイプのカップルが彼に近付いてきました。
「これ、買わない?」
「日本人だろ? 金、いっぱいあるんだろ?」
彼らが手に持っていた小さな白い袋の中身を想像するのは難しいことではありませんでした。

「ソイツ」に手をだすと、即刻日本へ強制送還です。
ろくに英語も修得もしないまま、1ヶ月で休学中の日本の高校に復学したら、ただの笑い者です。

「あい きゃんと あんだすたんど いんぐりっしゅ。(英語、わかりません。)」
英語が分からないふりをして、その場を去りました。
実際、まだまだ英語は分かっていなかったのですが。

下手な英語で分かったふうな対応をしていたら、高額で「ソイツ」を売り付けられ、 「ソイツ」びたりのアメリカンライフになっていたかも知れません。
それはそれでアメリカらしいかも知れませんが、せっかくですから、もっとまっとうなアメリカに触れることにしましょう。
 
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 冗談だって! 
1989年9月 ★

Catch you up!
ジョークの国アメリカでは、休み時間に仕入れたばかりのジョークを披露しあいます。

「仲のいいトマトときゅうりが二人で旅をしていた。
長い間、歩いたので、太っているトマトがとうとう疲れてしまった。
”きゅうりくん、先に行ってくれ。
ちょっと休んだら、すぐ追い付くから。”」
(追い付く = キャッチ・ユー・アップ → ケチャップ)
「ハッハッハッハー!!」

それは英語のだ洒落だったりします。
または、多国民や、ある一部の人を笑い飛ばしたものだったりします。
それを聞いてまわりの生徒も大笑いします。

「いまの、わかんないの?」
そう簡単に英語でジョークが分かれば苦労はしません。
しかし、分からないことが続くと、今度は日本人の彼がジョークのネタになります。
「まいったな、日本人には笑う回路がないのか?」
「ハッハッハッハー!!」
まわりは大爆笑です。

そのジョークを言った生徒が自分のジョークをフォローするため言いました。
「ジャスト、キディング!」
彼は「キッ」とその生徒を見ました。
「『キディング』 って、どう言う意味?」

「ジャスト、キディング」(=Just kidding!=冗談だよ!)
という意味を調べるのに手持ちの小さな辞書では役にたたず、彼はその内容をなかなか理解できませんでした。

英語を話せるようになるのは、まだまだ先の様です。

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 「ワニ」になった留学生 
1989年9月 ★

彼の名前は冠木 重太(かぶき しげた)と言います。
シンガポール編、アルゼンチン編と名無しの少年だった彼も、そろそろ名前で呼んであげることにしましょう。

彼が生まれた時、体重が4000gを越えていたそうです。
「なんてい子!それにぷくぷくって…。」
彼の両親はそう思ったそうです。
それで、この名前です。

ゲイタァ!」
アメリカ人はみな、彼をこうやって呼びました。
どうやら単語の真ん中にアクセントをつけないと、言葉を言えないようです。

GATOR mark
「シ ゲイタァ!」
「シゲイタァ!」
ゲイタァ!」
そのうち、最初の「シ」がとれて、彼は
「ゲイタァ」(=Gator!)
と呼ばれるようになりました。

ゲイタァとは、アリ「ゲーター」、つまりワニのこと。

アメリカで彼はワニになったのでした。


「ゲイタァ? そう呼ばれてるの?」
日本に1年間留学していたケリーは、重太のあだ名に困惑顔です。
「『シゲチャン』の方がかわいくて、いいでしょ? 今日からシゲチャンね!」
アメリカに来て「シゲチャン」というニックネームがつくとは思いませんでした。
 
「シゲチャン!」
「シゲチャーン!」
「シーゲチャーーン!」
ブラジル日系3世のリサもすぐそれを真似し、なぜだかイタリア人アンドレまで重太のことを「シゲチャン」と呼ぶ始末です。
 
「…。 好きなように呼んでくれ…。」
自分の名前が何なのか、よく分からなくなってきました。
 
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 ノックノック! 
1989年9月 ★

家に帰ると、ホストブラザーのスコットが学校で仕入れてきた子供達の間で流行っている言葉遊び、「ノックノック」を披露してくれます。

スコット「ゲイタァ、”ノックノック”やろう!」
重太「何それ?」
スコット「僕がドアをノックするから、誰?って聞き返して。」

どうやら”トビラの外と中のやり取り”の言葉遊びらしいです。

スコット「ノックノック!」
Knock! knock!
(コンコン=ドアをノックする音)
重太「ふーず ぜあ?」
Who's there?
(誰ですか?)
スコット「レタス!」
Lettuce!
(レタスです。)
重太「れたす ふー?」
Lettuce? who?
(レタスさんって誰ですか?)
スコット「レッタス イン!」
Let us in!
(= 入れて下さい!)

「…………。」
「ゲイタァ、わかんないの? もういいよ!」
ジョークを理解できず、小学3年生に怒られてしまいました。


この「ノックノック」遊びは映画、「ユーガットメール」の1シーンで見ることができます。
(クレジットカードで支払うスーパーのレジに並んでしまったメグ・ライアンにトムハンクスが手助けをするシーン)。

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 ハイ・ファイブ!! 
1989年9月 ★★

「ゲイタァ遊ぼうよ!」
ホストブラザー達は、自分の家にやってきた大きなお兄さんと遊びたがります。
留学開始当初は、彼も小学生に混じって家の前でおにごっこや野球をやって、一緒に遊びました。

High 5! 「ギミー・ファーイブ!!」(Give me Five!!)
ホームインしてきたスコットが手をあげて彼の方にやってきます。
「? 5つ欲しいって? 何を?」
「お互いの手を高い位置でパチッてあわせるを”ハイ・ファイブ”っていうのだよ!!」
「なるほど。」

指を5本(=ファイブ)高い(ハイ)位置であわせる、と言うことなのでしょうか。
「それで、それを催促する時、『ギミー・ファーイブ!!』って言うんだよ!」
子供との遊びからも実用英語はたくさん学べてしまいます。

「ハイ・ファーイブ!」
チームメイトと喜びを共有し、味方のプレーを賞賛し、士気を高める。
なんて素晴らしい習慣なのでしょう!
重太はそれから、友達と何かやってうまくいった時は必ず、
「はい ふぁいぶ!」といって手を高くかかげる様になりました。


「ハイ・ファーイブ!」
手を頭上でパチッとあわせます。

「ロー・ファーイブ!!」
手を膝くらいまで下げ、パチッとあわせます。

「タイニー・ファーイブ!!!」
顔の前で片手の指をビアノを引くように次々あわせます。

こんな違ったバージョンの「ハイ・ファーイブ!」もありました。

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 「何かあったかい?」 
1989年10月 ★

重太にも少しずつ高校で友達が出来てきました。

「ハーイ! ゲイタァ!(Hi! Gator!)」
「ハウ アー ユー?(How are you?)」
廊下ですれ違う時、その友達が彼に笑顔で軽く挨拶してくれます。

「あいむ ふぁいん、あんど ゆー?(I'm fine, and you?)」
中学で習った通りの英語でバッチリ対応しました。
英語なんて簡単です。

「ヘイ、ゲイタァ。ワッツ アップ?(What's up?)」
スティーブが廊下でいつもこう声をかけてくれます。
「あいむ ふぁいん。(I'm fine.)」
「…………。」
どうもしっくりこない、といった表情をいつもスティーブはしました。
彼が自分の間違いに気付かされるのに1ヶ月かかりました。

「よう、シゲタ、最近、何かあったかい?」
「僕は元気だよ。」
上の挨拶を日本語にするとこうなります。
なんて、噛み合っていない会話でしょう!
挨拶にはとりあえず、「元気だよ。」とこたえておけばいいと勝手に思っていたのが間違いの始まりです。

「What's up?」とは「何かあったかい?」という意味だったのです。
つまり、この場合は

 「うちのネコがいなくなっちゃってさぁ…。」とか、
 「うちの車、新車になったんだよ!」とか、
 「特に何もないなぁ…。」とか、
とか答えるべきなのです。

「ヘイ、ゲイタァ。ワッツ アップ?(What's up?)」
「なっしんぐ すぺしゃる。(Nothing special.)」
「そうかい!」

スティーブに受け応え方を教えてもらってからは、ちゃんと会話が噛み合うようになりました。
「特に何もないよ。(Nothing special.)」
とだけは、言えるようになったのです。
たとえ、風邪をひいたり、ホストマザーにいろいろ小言を言われたり、何があったとしても。

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 アニメで笑う! 
1989年11月 ★

当時、「カワバンガ、ドュードゥ!」という甲羅をせおった忍者亀のテレビアニメがアメリカの子供達に大人気でした。
背景の掛け軸にカタカナで「アニメ」と書かれているアニメなど、とうてい見る気がおきません。

というより、ホストブラザー達が笑っているシーンで自分が笑えないのが、なんとも悔しいのです。
アニメは世界の共通語みたいなことを言う人もいますが、そこに台詞がある限り、そんな単純なものではありません。

では、アニメは世界の共通語ではないのでしょうか?

いえ、そんなことはありません。
ワーナーブラザーズが誇るテレビアニメシリーズ、「ロードランナー」は言葉の壁を超越した偉大なアニメです。
留学したての重太ですら、このアニメをみてホストブラザー達と一緒に大笑いしていました。
それもそのはず、台詞など全くなく、動きだけで語られる短編アニメなのですから。

Bart Simpsons
その後、日本では全然ブームにならなかった「シンプソンズ」に出会います。
C.C.レモンのキャラクターとして使われたりもしました。
ユニークな絵柄とイタズラっ子バートが引きおこす数々のトラブル、そして彼の数々の名ゼリフが当時大流行しました。

「I'm Bart Simpson. Who the hell are you?」
(アイム バート シンプソン。 フー ザ ヘル アー ユー?)
みんなが着ているバートのTシャツにそう書かれています。
バートお得意のアイサツ言葉です。

「I'm Shigeta. Who the hell are you?」
(あいむ しげた。ふー ざ へる あー ゆー?)
「What? What did you say?」(な、なんだって?)
バートをまねして初対面の人に言ってみたら、相手はひどく怒り出しました。
殴り掛かってきそうな勢いです。

「Who」の後に「the hell」をつけるだけで、とても汚い強調文になってしまうのです。
この場合だと、「てめぇ、一体何もの?」みたいな意味になってしまうようです。
こういう言葉は知ってても使わないにこしたことはありません。

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 へっくしょん! 
1989年12月 ★★

「へっくしょん!」
「ブレス・ユー!」(=Bless you!)
「サンキュー!」

くしゃみの際にこんなやり取りがアメリカでは見受けられます。

「くしゃみをして調子が悪そうだけど、神様の恵みがあることを!」
「くしゃみでよい神様が体内から出ないように!!」
みたいなニュアンスで、くしゃみをした人に対して「ブレス・ユー」と声をかけてあげることがあるのです。

それに対して、くしゃみをした人は「ありがとう!」とお礼を言います。
日本ではなかなかみられない「くしゃみのやりとり」に彼は興味をもちました。

「へっくしょん!」
しーん。
誰も彼のくしゃみを気づかってくれません。
「ぶれす みー…。」(=Bless me.....)
とりあえず、小声で自分を気づかっておきましょう。

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 タートル、ハードル 
1989年9月 ★★

Turtle 「ゲイタァ、TURTLE(=亀)って言ってみな!」
「たーとる」
「ハッハッハッハッハ!」
場内は大爆笑です。

「じゃあ、じゃあ、HURDLE(=ハードル)って言える?」
「…はーどる」
「ハッハッハッハッハ!」
場内はまた大爆笑です。
続けて、「これを発音できないやつは人間ではない」と言わんばかりに「アール(=R)」がつく単語をかたっぱしから言わされました。

「ハッハッハッハッハ!」
場内は史上最高のジョークを聞いたかのように大爆笑です。
涙を流して笑っている奴すらいます。
いくら日本語にない発音だからといっても、ここまでバカにされると悔しいものです。

「ポイントはアールの前に小さく「う」を言うことだよ。」
ホストマザーが重太に親切に教えてくれました。

「タートル(=英語の発音)」
「オオオオオ!」
次の日、場内は驚きの声に変わりました。
「昨日、練習したんだ!」
「すごい、すごい!」
「なにを言ってるのか、分かるよ!」
「まだ、ちょっと発音が違うけどね。」
「…………………」
多分、一生かかっても彼は正確に「TURTLE(タートル)」と言うことはできないでしょう。

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 マクドナルド、セブンイレブン 
1989年9月 ★★

「ま く ど な る ど」
「What? (え? なんだって?)」

日本式に言う「マクドナルド」はアメリカでは絶対通じません。
ナル」くらい強弱をつけ、それっぽい発音をしないとわかってはくれないのです。

こんな話題にアメリカ人は妙に興味を示しました。

「せぶんいれぶん」
「けんたっきー ふらいどちきん」
「みっきーまうす」
「ばっく とぅ ざ ふゅーちゃー」
「でぃずにーらんど」

「ゲイタァ、今なんて言ったの?」

『重太が何を言ったか当てるクイズ大会』が開かれてしまいました。
それ程、日本式の英単語発音はアメリカ人には理解できないものみたいです。

今でも日本人に言いやすいように、表記しやすいようにフィルターがかけられ、英語は日本に輸入されています。
そして、そのまま我々の生活の中に英語ではない英語、「ジャパニングリッシュ」は定着してしまったようです。

ひらがな、カタカナ、漢字では、英語の発音に似せて表記できなかったため、こんな風になってしまったのでしょうか。
先ほどのアール(R)やブイ(V)、はたまた(TH)の発音などは元来日本語にないものです。
これらは表記、発音できなくても、まあ仕方ないかと思えます。
しかし、せめてリズムや強弱、子音止めくらいは少しでも英語に似せた表記や音感を残して普及させてほしかったものです。
後世の日本人、そしてアメリカで留学をはじめた彼のために…。

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 「ジャーク」なやつ
1989年10月 ★★

「シゲイタ、あなたって、ジャークね!!」
夕食時、ささいな事でホストシスターが怒り出しました。
「ジャーク? どういう意味だ?」
「…。 やな奴、とか、そういうこと。」
こまった顔で、ホストマザーが教えてくれました。
アメリカにもいろいろ相手をけなす言葉がある様です。

他に例をあげると、
 ●ナード
 ●バットヘッド
 ●ギーク
 ●バスタード
などがあるようです。(『あえて』、カタカナ表記です。)

 ●ディスガスティング(むかむかする)
 ●グロウス(きたない)
 ●ウィアード(へんなやつ)
 ●スィリー(おばかちゃん)
 ●サッカー!(くそやろう!)
など、使わないにこしたことがない言葉が多数存在する様です。

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 「タラーーー!!」
1989年10月 ★★

「タラーーーー!!」
ホストブラザーが誇らし気に自分の描いた絵を見せます。
「学校でいい成績をもらったんだ! うまいでしょ!」

最初に彼の言った
「タラーーーー!!」は日本で言うところの
「ジャーーーン!!」という擬音に該当する様です。

「ヒーーーーーッハ!!」
何かがうまくいった時にあげる奇声です。
我々日本人が叫ぶ
「イヤッホーー!!」と言ったところでしょうか。

「ズーーーーーッ!!」
なぞなぞやクイズにはずれた時の効果音です。
日本では
「ブーーー−!」と違うタイプのブザー音をまねると思います。

「アウチッ!!」
指をはさんだり、熱いお湯にさわってしまったり、とちょっと痛い目にあった時にいう言葉です。
「いて!」、「あち!」と日本人が叫ぶところで使われてました。

「ウッッッップス!!」
ちょっと失敗してしまった時に茶目っ気を出して言うセリフです。
「おっと!」という感じでしょうか。

擬音の表現も多種多様、アメリカに行ってから知るものがほとんどでした。

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英語に苦労しつつ、毎日の授業は進んでいきました。
彼がどんな授業を選択し、まがりなりにも学んでいったか、覗いてみることにしましょう。

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 英語苦戦編 目次 

初登校とロッカー ………緊張の初登校、まずロッカーが開かず…

こんな始業式、あり? ………日本の始業式と全く違う始業式

留学初日 初授業 ………登校初日、いきなり授業がはじまる

はじめての友達 ………見知らぬ地で友達が

留学初日 ショックな出来ごと ………英語力のなさを初日から痛感

お気に入りの椅子 ………話し掛けてきた美女の言ったセリフとは?

これ、買わない? ………英語力のなさを逆利用

冗談だって! ………笑い話にもついていけない日々

「ワニ」になった留学生 ………本作品の主人公名がようやくここで判明!

ノックノック! ………英語で遊ぼう!

ハイ・ファイブ!! ………ジェスチャーと共に学ぶ英語

「何かあったかい?」 ………間違えて、英語は学んでいく

アニメで笑う! ………使ってみて、英語を学んでいく

へっくしょん! ………ちょっとしたアメリカの風習

タートル、ハードル ………「R」の発音に泣かされる日々

マクドナルド、セブンイレブン ………日本のカタカナ英語はほとんど通じない!

「ジャーク」なやつ ………いろいろな悪口

「タラーーー!!」 ………いろいろな擬音

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